ビヨンドSDGs アジア・ASEANマルチステークホルダー対話会合 Report

2026年4月21日、マレーシアのプトラジャヤにあるマレーシア・ハイテク産官機構(Malaysian Industry-Government Group for High Technology:MIGHT)にて、「ビヨンドSDGs アジア・ASEANマルチステークホルダー対話会合」が開催されました。本会合は、午前と午後の2部制で実施され、グループディスカッションなどを通じて、ビヨンドSDGsにおけるアジアおよびASEANの重要性について活発な議論が行われました。
公開フォーラム
Beyond SDGs 2030 – Asian and ASEAN Multi-stakeholder Dialogue Beyond 2030
9:00〜13:00(Auditorium, MIGHT)
【Program】
◼︎開会挨拶
:Professor Emeritus Tan Sri Zakri Abdul Hamid, Joint Chairman (Government), MIGHT and Founding Director, Institute of Science Diplomacy and Sustainability (IISDS), UCSI University
◼︎ビヨンドSDGsプロジェクトについて
:Professor Norichika Kanie, Graduate School of Media and Governance, Keio University and Co-director, Keio STAR
◼︎マレーシアにおけるSDGの現状について
:Dr. Alizan Mahadi, FormerSenior Director of Research, ISIS Malaysia
◼︎パネルセッション1
「From Implementation to Transformation: ASEAN Perspectives on the Future of Development Governance(実施から変革へ:開発ガバナンスの未来に関するASEANの視点)」
モデレーター:Alizan Mahadi
パネリスト:
・Dr. Boediastoeti Ontowirjo, Deputy Chairman for Research and Innovation Policy, National Research and Innovation Agency of the Republic of Indonesia
・Dr. Hul Seingheng, Under Secretary of State Ministry of Industry, Science, Technology & Innovation, Cambodia
・Dr. Wardah Hakimah binti Hj Sumardi, Deputy director of Sustainability (Research, Innovation and Sustainability), University of Brunei Darussalam, Brunei Darussalam
・Mr. Anibal Antero Soares, Technical Specialist and Assistant to the Director General of Planning and Finance, Ministry of Higher Education, Science and Culture, Timor-Leste
・Dr. Orakanoke Phanraksa, Senior Intellectual Property Consultant National Science and Technology Development Agency (NSTDA), Thailand
◼︎パネルセッション2
「Anticipating the Next Frontier: Emerging Domains and the Reconfiguration of Global Sustainability Governance(次のフロンティアを見据えて:新興領域とグローバルな持続可能性ガバナンスの再構成)」
モデレーター:Norichika Kanie
パネリスト:
・Dr. Arvin C. Diesmos, Biodiversity Knowledge Management ASEAN Centre for Biodiversity, Philippines
・Dr. Zurina Moktar, Assistant Director/Head, Science & Technology Division, ASEAN Economic Community (AEC) Department, ASEAN Secretariat
・Dr Richard Marshall, Senior Economist, Office of the UN Resident Coordinator for Malaysia, Singapore and Brunei Darussalam
・Dr. Revati Phalkey, Director, United Nations University International Institute for Global Health (UNU-IIGH)
2030年という節目が近づく今、2027年のSDGサミットや「ポスト2030アジェンダ」の策定など、新たな政策の機会が訪れています。本セッションでは、このような背景のもと、ビヨンドSDGsイニシアティブとして、アジア・ASEANマルチステークホルダー対話を正式に発足させました。
タンスリ・ザクリ・アブドゥル・ハミド名誉教授による開会挨拶では、SDGsは依然として非常に重要であるが未完であり、共通の言語と世界的な参照枠を提供してきた一方で、その実施は不均一で断片的であり、変革的な変化を推進する原動力というよりも、報告の枠組みとして機能することが多かったと振り返りました。そして、解決策はSDGsを放棄することではなく、SDGsからの教訓をいかにして2030年以降の開発ガバナンスの将来に活かすかを問うことにあり、東南アジアおよびASEANに焦点を当てることの重要性を強調。
また、国際関係および科学外交における自身の経験を踏まえ、地域外から生まれた見解に安易に同調することへの警鐘を鳴らしました。そのうえで、参加者に対し、開発と持続可能性のバランス、多様性の管理、地域協力の強化、そして変化する状況への対応といったASEAN独自の知識基盤から得た教訓を踏まえ、将来のグローバルな議論にASEANがどのように貢献できるかを明確に示すよう促しました。
蟹江憲史氏は、ビヨンドSDGsプロジェクトの背景を紹介し、持続可能性に向けた行動は2030年以降も継続していく必要があると指摘。そのうえで、変革の経路、2027年の政策ウィンドウ、ビヨンドGDPに関する議論、そして将来のグローバルな議論へのインプットとして、アジアおよびASEANの視点を集めることの必要性と重要性を強調しました。

アリザン・マハディ氏は、マレーシアにおけるSDGsの進捗と今後の課題について報告しました。マレーシアはこれまで、SDGsを国家計画サイクルに統合し、SDGガバナンス体制を構築するとともに、VLRや地方サミットを通じてローカライゼーションを強化し、統計システムおよび細分化データを改善してきました。しかしその一方で、女性の労働参加や出生登録、不正規雇用、研究開発支出、賃金シェア、温室効果ガス排出、森林被覆、生物多様性などの分野では、依然として課題が残っていると指摘。
また、2030年以降の設計に関しては、「この枠組みは引き続き拘束力のないものであるべきか」「17の目標からなる構造は依然として適合しているのか」「アジェンダはどこで策定されるべきか」「どのような実施方法論が必要か」「トレードオフをどのように管理すべきか」など、重要な問題を提起しました。
パネルセッション1「From Implementation to Transformation: ASEAN Perspectives on the Future of Development Governance(実施から変革へ:開発ガバナンスの未来に関するASEANの視点)」では、実施から変革への移行におけるASEANの経験に焦点が当てられました。
インドネシア、タイ、東ティモール、カンボジア、ブルネイ・ダルサラームの登壇者が、それぞれの国に特有の経験を共有。共通の課題や注力が必要なテーマとして、SDGsの国家開発計画への統合やSTIの重要性、ミッション志向型研究、データシステム、人的資本、政策の整合性、地方および地域協力、そして試行段階を超えてイノベーションを拡大することの継続的な難しさが挙げられました。複数の登壇者は、SDGの実施が制度的な成果を生み出してきた一方で、必ずしも構造的な変革にはつながっていないという点を強調しました。
その後の質疑応答では、科学外交や知的財産、オープンイノベーション、技術移転、データの不足、高齢化社会、レジリエンス、ESGとSDGの連関、そして現在の多国間システムの限界に焦点が当てられました。参加者は、ASEANが対外的に定義されたグローバルアジェンダに単に対応するのではなく、科学外交の能力を強化し、地域としての主体性を構築すべきであると主張しました。



続くパネルセッション2「Anticipating the Next Frontier: Emerging Domains and the Reconfiguration of Global Sustainability Governance(次のフロンティアを見据えて:新興領域とグローバルな持続可能性ガバナンスの再構成)」では、新興領域およびグローバルな持続可能性ガバナンスの再構成へと議論が移りました。
ディスカッションでは、自然資本会計やAI、リアルタイムデータシステム、気候レジリエンス、リスクとレジリエンス、若者と将来世代、不平等、権力力学、資金調達、強制移動、移住、保健医療システムの変革などが、現在のSDGsにおいて十分に取り上げられていない、あるいは統合が不十分な分野として特定されました。
さらに登壇者は、ガバナンスの仕組みについても議論を展開。地域プラットフォームやASEANのセクター別機関、ネットワーク、参加型アプローチ、国連改革、国際金融アーキテクチャの改革、説明責任、科学外交、そしてマルチレベルの連合構築の重要性を強調しました。


午前の公開フォーラムは、「目標を通じたガバナンスの強みは理想的な将来の状態を定義し、そこから現在の行動へとバックキャスティングすることにある」という蟹江氏の考察で締めくくられました。蟹江氏は参加者に対し、既存の視野を超えて2050年以降を見据えて考えるよう促すとともに、午後のインタラクティブセッションを活用して、SDGsの未来に向けた具体的な提案を作り上げるよう呼びかけました。
午前中を通じて再確認されたのは、ビヨンドSDGsプロジェクトの目的が単に新たな目標リストを思い描くことではないという点。何が機能し、何が失敗したのか。そしてどのような制度改革やガバナンスの仕組み、新たに浮上している優先事項が将来の枠組みを形づくるべきかを検討することこそが重要です。同時に、ASEANは単なる実施地域にとどまるのではなく、自らの見解や経験、優先事項をグローバルな議論に提供していく「知識創出地域」としての役割を担うことが、今まさに求められています。

インタラクティブ・セッション
Effective of institutional mechanisms for SDGs implementation, and the Future Pathways of SDGs(SDGs実施のために有効な制度的メカニズムと、SDGsの将来の道筋について)
14:30〜17:30(Meeting room, MIGHT)
【Program】
◼︎インタラクティブ・セッション
◼︎ブレイクアウト・セッション
◼︎総括
◼︎主要なメッセージと締めくくりの考察
午後の部は、インタラクティブなセッションとブレイクアウト形式のワークショップで構成され、参加者はSDGsを含む持続可能な開発フレームワークの現状と将来について議論しました。
インタラクティブ・セッションは、2030年以降のSDGsの将来について、地域的かつマルチステークホルダーの視点を収集するための参加型の場として実施されました。モデレーターを務めたアリザン・マハディ氏はセッションの冒頭で、「ビヨンドSDGsプロジェクトの目的はあらかじめ定められた立場を押し付けることではなく、将来の持続可能な開発枠組みの形成に資する見解を収集することにある」と強調しました。
まずMentimeter(リアルタイム投票ツール)を用いたセッションが行われ、参加者からは、効果的なSDGs実施に対する主要な障害として、調整不足や断片化、政治的意思、資金調達、行動変容、データ管理、ローカライゼーション、ガバナンスといった点が提示されました。SDGsは一般的に有用ではあるものの、不十分ともみなされており、平均的な有効性スコアは5点満点中約2.9。大多数の参加者は、SDG枠組みをほぼ継承するか、あるいは大幅な修正を加えて維持する方向に傾いていた一方、少数は根本的に新しい枠組みを主張しました。望ましい将来の目標年は2040年と2050年に集中したものの、タイムラインだけでなくガバナンスの仕組みがより重要であることを強調するために、2100年というより長期の視点を主張する参加者の姿も見られました。
将来の持続可能性フレームワークに必要と特定された新たなテーマには、AIやその人間化、新興技術、合成生物学、健康と公平性、プラネタリーヘルス、教育、気候レジリエンス、そしてより広範なシステム変革などが含まれていました。参加者は、地域的な仕組み、特にASEANやマルチステークホルダー・パートナーシップを、実施の有効性を向上させるうえで有望とみなした一方、一部からは、グローバルおよび国家レベルでの取り組みは当面の有望性が低いとの見方も出ていました。
本セッションでは、教育や政治的意思、リーダーシップ、倫理、そして経済システムの関係について、かなり踏み込んだ議論を展開。ザクリ名誉教授が決定的に欠けている要素として政治的コミットメントを強調したのに対し、他の参加者は、政治的意思は教育や価値観、倫理、そして経済システムの構造と結びついていると主張。議論はさらに広がり、リーダーシップや社会的行動、そして持続可能性に関する言説と実践との間にあるギャップの重要性などへと発展しました。

グループディスカッションを前に、ザクリ名誉教授は歴史的背景を解説。ブルントラント委員会やアジェンダ21からミレニアム開発目標(MDGs)、持続可能な開発目標(SDGs)へと至る進化をたどりました。教授は、中心的な目的は依然として存続の危機への対応であり、とりわけ気候変動や生物多様性の損失であると主張。また、ASEANは外部から作成されたグローバル・アジェンダに単に対応するだけでなく、この地域が何に貢献できるのかを特定すべきであると強調し、その具体的な例として生物多様性の豊かさ、アクセスと利益配分、そして先住民の知識を挙げました。
続くグループに分かれた議論では、「維持・変更・追加(Keep, Change, Add)」の枠組みを用いたワークショップ形式のディスカッションが行われました。グループ全体の議論を通して、SDGsを全面的に廃止すべきではないという広範な合意が形成され、参加者は、広範な枠組みや報告プロセス、「5つのP」、およびいくつかの既存目標については維持(Keep)を支持する傾向を示しました。
しかし同時に、多くの変更(Change)や追加(Add)も求められています。具体的には、目標間のより強い統合や不平等へのさらなる注目、データ活用と影響分析の改善、より強力な遵守および執行メカニズム、ローカライゼーション、文化的関連性、統合的な報告メカニズム、リアルタイム監視、市民参加、企業の説明責任、そして地方政府やVLR(Voluntary Local Reviews)のより大きな認識などです。
具体的な提案として、あるグループからは、2050年を見据えた地球の存続のための資金調達と結びついた、より大胆な「惑星生存フレームワーク(Planetary Survival Framework)」が挙がりました。別のグループからは、SDGsを目標ごとに見直し、特に食料や水、エネルギー安全保障、先住民、文化、生物多様性、ガバナンスにおける倫理、そして政治的意思に関して、選択的な統合や維持、拡張が提案されました。

全体の議論の締めくくりとして、蟹江氏は「この対話は2027年までにインプットを提供し、さらに2030年に向けて続いていく長い旅路の始まりである」と話し、今後の対話を豊かにするために、科学的インプットや研究、そして意見のマッピングが必要であると強調しました。
最後にザクリ名誉教授が、若者のより積極的な参加を呼びかけ、多様な専門性の認識やグローバルなプロセスにおけるASEANの対等なパートナーシップ、そしてグローバルな人類の福祉を形づくるうえで、いかなるステークホルダーも傍観者ではないと力強く締めくくりました。

写真:MIGHT提供