ビヨンドSDGs官民会議 キックオフ・フォーラムReport 【パネルディスカッション① ビヨンドSDGsに向けた具体的な取り組み】

Report
2025.10.15

SDGsが採択されて10年の節目を迎える2025年、政府、企業、市民社会、ユースはどのような課題を抱え、どのような希望を見出しているのでしょうか。本パネルディスカッションでは、外務省、経団連、市民社会ネットワーク、ユースプラットフォームの代表者らが、これまでに感じた「壁」を振り返りながら、SDGs達成に向けた加速策と、その先の「ビヨンドSDGs」を見据えたアプローチについて意見を交わしました。縦割りの壁を越えた連携、企業の実装フェーズへの移行、地域から生まれる変革、そして意味あるユース参画の実現といった具体的な方向が、それぞれの語る思いから見えてきました。

登壇者

西崎 寿美(外務省国際協力局 審議官)
長谷川 知子(一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事)
三輪 敦子(一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク 共同代表理事)
山口 凜(持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム 事務局長)

進行

川廷 昌弘(ビヨンドSDGs官民会議 事務局長)

世界で見る日本のSDGs達成状況と課題

川廷

ビヨンドSDGs官民会議は、SDGsに取り組んでいる方全員がメンバーという考え方で立ち上がっており、みなさまの取り組みを集めて国連に届けることをお手伝いするのが私たち事務局の仕事です。
まず現状認識を共有したいと思います。今年のSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)のレポートによると、日本のSDGs達成度は世界で19位。日本が頑張っていないわけではありませんが、他の国が頑張れば日本の順位が下がってしまう状況にあります。
ゴールについては、2番の飢餓・食料問題や5番のジェンダーの問題が、以前から課題として指摘されています。今回のパネルディスカッション登壇者は全員女性ですが、これが当たり前になることが本来の姿だと思います。循環型社会や気候変動、生物多様性の保全についても、日本は自然豊かな国であるにもかかわらず、世界からは化石燃料に依存する社会構造をどう考えているのかと問われています。
できていることは3番の保健ぐらいしかなく、他はすべて課題があると言われているため、まだまだ努力をしなければなりません。
外務省が発表している今回のVNR(自発的国家レビュー)の特色は、ポストSDGsの議論を念頭に、少子高齢化や地方、防災など、国際社会のモデルとなる日本の挑戦を意識して書かれていることです。マルチステークホルダーによってレポートがつくられており、その中に批判的な議論も含まれていることは世界的にも評価されています。

多様な立場から見える、SDGs達成の壁とは

川廷

まず、ご登壇のみなさまが、それぞれの立場から感じている壁を教えてください。

西崎

外務省の西崎です。日本政府はSDGs推進本部を立ち上げ、外務省は国連との調整に加え、国内のSDGsの取り組みを行っています。本年、日本は4年ぶり3回目となるVNRを実施し、2021年から2025年までの振り返りを行いました。
この間、国際社会は新型コロナウイルス感染症の拡大や気候変動、ロシアによるウクライナ侵攻やガザ情勢など、深刻な問題に直面してきました。2025年はSDGs採択から10年の節目ですが、2030年のSDGs達成やそれ以降の持続可能性に関する議論は、SDGs採択当初よりも大きな困難に見舞われていると考えています。
このような壁を打開すべく、日本政府として引き続き多様な関係者のみなさまと連携協力しながら、SDGs達成への道筋を切り開いていく所存です。

長谷川

経団連常務理事の長谷川です。経団連は、主要企業1,500社および業界団体、地方経済団体から構成される総合経済団体です。活動方針では、サステナブルな資本主義の実現によるSDGs達成を柱に掲げ、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー(循環経済)、生物多様性、ビジネスと人権など、企業が貢献できる分野での会員企業の取り組みを推進しています。
壁として感じているのは、オープンイノベーションを進めなければならないにもかかわらず、それを阻む縦割り意識、内向き思考です。これは政府にも経団連会員企業にも感じており、日々悩んでいます。

三輪

SDGs市民社会ネットワーク、通称SDGsジャパンの共同代表理事を務めている三輪です。SDGsは採択当初には想定しなかった危機に見舞われており、この危機を三重苦と表現してきました。気候変動からの気候危機、パンデミック、そしてロシアのウクライナ侵攻です。どんなに危機に瀕していても、私たちにはSDGsを諦める選択肢はありません。環境・社会・経済の3分野に統合的にアプローチして世界を変革するのがSDGsでしたが、その前提として平和があることを痛感しています。戦争はこの3つすべてを残酷に、そして根本的に破壊してしまいます。
壁については、SDGsを実現するためにはドラスティックなシステムチェンジが不可欠で、そのためには縦割り行政の克服が必要です。国際的には、多国間主義への信頼の回復が、今すぐに求められる課題だと感じています。

山口

ジャパンユースプラットフォームで事務局長を務めている山口です。現在大学3年生で、持続可能な社会に向けて意味あるユース参画が実現できるよう活動しています。日本政府や国連機関への政策提言活動、ユースへの普及啓発活動を行っており、今回のVNRにも弊団体のコラムを掲載していただいています。
感じている壁は、今抱えている社会・地球規模課題で一番被害を受けるのは私たちユースであるにもかかわらず、どこから手をつけたらいいか分からないと言っているユースが多いことです。原因は、会議やプロセスにおける専門性と、求められる知識が高くなっていることだと思います。意味あるユース参画を実現するためには、年齢や性別に関係なく対等に話せる場が必要です。

対話と協働で描く、持続可能な未来の提案

川廷

西崎さんに伺います。今回のVNRにはマルチステークホルダーからの執筆が多く盛り込まれ、新しいアプローチをしていただいたと感じています。ポストSDGs・ポスト2030の議論に向けて、日本はどのような貢献を描けばよいでしょうか。

西崎

今回のVNRは、2023年10月に改定したSDGs実施指針で決意を示した通り、これまで以上に多様な関係者の参画を得て作成しました。2024年10月以降、2回のSDGs推進円卓会議に加え、より幅広い関係者の参画を促すべく、VNR実施に向けたステークホルダー会議やユースとの意見交換も実施しました。パブリックコメントも1か月以上実施し、多くの意見を取り入れています。
さらに、日本政府による評価だけでなく、独立した第6章として、ステークホルダーの執筆による厳しい評価も掲載しました。2030年以降の国際的な持続可能性に関する議論においても、今回のVNRのプロセスのように、多様な関係者の主体的参画を通じ、日本として指導的な役割を果たしていきたいと考えています。

川廷

日本らしさ、日本の強みを生かした提案の仕方について、どのようにお考えでしょうか。

西崎

国際社会は複合的な危機に直面し、分断も進んでいます。このような状況で重要なのは、現在のSDGsが目指す原点に立ち返ることです。それは国際社会の平和と安全を維持し、人間の命と尊厳を守り、経済的・社会的開発を進めるために協力することです。
日本は人間の安全保障の理念のもと、誰一人取り残さない理念の実現に貢献していきます。上から押しつけるのではなく、ともに価値を共有していくのが日本のやり方です。
現在日本は課題を抱えており、特に世界に先駆けて極めて厳しい少子高齢化、人口減少に直面しています。2030年以降を見据えた議論では、課題先進国としてこのような課題を他国と共有し、自身の取り組みや知見を国際社会にモデルとして示すとともに、多国間主義を重視しながら、対話と協調を通じた価値の共有を進めていきたいと考えています。

川廷

長谷川さんにお伺いします。企業のSDGsへの取り組みが実装フェーズに移ったと感じますが、その変化の背景をどのように捉えていますか。

長谷川

おっしゃる通りです。企業はこれまで、統合報告書にSDGsのマークをつけて「当社の事業はSDGsのゴールに貢献しています」と述べていましたが、そうした段階はすでに終わっています。現在、企業は自社の事業やプロジェクトが、SDGsに示されるグローバル課題の解決にどの程度貢献するか具体的に示すことを求められています。
この変化の背景は、ステークホルダー、特に投資家から、単に「SDGsに貢献する事業」というステートメントだけでは納得してもらえないことにあります。SDGsに貢献する事業が各社の中長期的な企業価値の向上にどのようにつながっているのかを、経営戦略の中でビジネスモデルを用いながら、価値創造ストーリーとして示す必要があるのです。その際、中間目標やKPIといった指標が求められるようになっています。
経団連が最近注目しているのが、インパクト評価です。多くの企業は、自社が社会にどのような課題解決をするために存在しているのか、すなわち社会における存在意義をパーパスという形で示しています。各社が掲げるパーパスから、バックキャストとして経営戦略やビジネスモデルに基づく価値創造ストーリーを示し、そこに向けた進捗を測定するKPI・インパクト指標を示すことで、企業と投資家を中心としたステークホルダーが共通の物差しを持って建設的に対話できるようになります。

川廷

残りの5年間で、達成を加速させながらその先の議論もしなければなりません。企業がより動きやすくなるために、政策面や制度面での期待はありますか。

長谷川

現在、第2次トランプ政権において反ESG(環境・社会・企業統治)、反DEI(多様性・公平性・包括性)の政策が打ち出され、トランプ政権は明示的にSDGsにも反対しています。EUでもサステナビリティ関連政策の見直しが進んでおり、世界中でSDGsへの揺り戻しの動きがあります。
しかし日本企業は、今後ともサステナビリティを成長機会と捉え、SDGs達成の貢献を通じて自社の競争力を強化するという立場を改めて認識しています。
政府への期待として、まずは日本企業および日本政府のSDGsへの貢献や強みを積極的にアピールしていただきたいと思います。「仙台防災枠組」をはじめとした防災減災分野、少子高齢化が進むなかでの地方の過疎化対策、そして生物多様性の分野で先進的な取り組みを発信していただきたいです。
また、企業の実態のある取り組みに対する支援として、サステナビリティ情報開示のグローバルな基準策定やインパクト評価に関するデータ整備、好事例の収集などの支援をお願いしたいです。さらに、開発のための資金ギャップ解決のため、ODA(政府開発援助)と民間投資の相乗効果を発揮するための支援や、公的資金と民間資金を組み合わせて投資規模を拡大するブレンデッドファイナンスをより一層活用するためのご支援をいただければと考えています。

川廷

三輪さんに伺います。社会分野ではジェンダーや貧困の遅れが指摘されていますが、市民社会・地域の現場から見て、進みにくい理由の構造的な問題をどのように分析されていますか。

三輪

肯定的なところからお答えします。まずSDGsは、多様なステークホルダーが一緒に協力しないと複合的な課題は解決しないということを認識させる重要な概念です。今回のVNRのプロセスは、ステークホルダー会議が開催されるとともに、ステークホルダー報告という章が設けられ、批判的な意見も含めて記載されるなど、特筆すべき点が多々ありました。
重要な役割を果たしたのが、SDGsジャパンが発行したスポットライトレポートです。ステークホルダー会議についても、情報保障のやり方や分科会の持ち方が丁寧に議論されていました。パブリックコメントも1か月実施しましたが、重要なのは、それが実際の最終案に具体的に反映されたことです。
一方で、課題もあります。一言で言うならば、変わることへの後ろ向きな態度がこの国には存在します。ジェンダー平等や地球温暖化対策、脱炭素など、さまざまな面で感じています。ジェンダーギャップ指数は順位が低いだけでなく、下がりつつあるという問題があります。これには、世界で起きている変化が日本では起きていないという明確な理由があります。
また、世界市民会議が公表している気候変動対策に関する意識調査では、「あなたにとって気候変動対策はどのようなものですか」という質問に対し、「生活の質を脅かすものである」と答えた日本人は60%ですが、世界のデータは26.75%です。「生活の質を高めるものである」と答えた日本人は17%、世界では66%と全く逆になります。
高度経済成長での成功経験が、この変われなさの背景にあると感じます。「生き残るのは、最も強い種でも、最も賢い種でもない。環境の変化に最も敏感に対応できるもの」という言葉があります。私たちが、変わることに対してもっと積極的になることが重要ではないでしょうか。所属を離れれば誰もが一人の市民です。将来世代に持続不可能な社会を残してはいけないという気持ちを共有し、変化を起こしていくことが大切だと思います。

川廷

市民社会ネットワークとして、成功事例の発信と課題の抽出を両立していくために、どのような仕組みや工夫が必要とお考えですか。

三輪

成功事例は地域からどんどん生まれてきていると感じているため、その発信に努めたいと思います。さまざまな企業でも先進的な実践が生まれており、SDGsを使わなくても、未来をつくるための新たな革新的な実践が再生可能エネルギー、脱炭素の分野で生まれています。
成功事例がどのように可能になったのかを分析することが、新たな課題の抽出にもつながります。地方の成功事例を見ると、縦割り行政の克服は地方からの方が生まれやすいのではないかと感じます。人権の分野でも、三重県では包括的な差別禁止に関する条例が2年ほど前に施行されており、未来への希望はむしろ地方から生まれ、そこには中小企業も含まれると考えています。

川廷

山口さんに伺います。意味あるユース参画を実現するために、これまでどのような工夫をしてきましたか。

山口

弊団体では、ユース、女性、障害者などを含む社会的に脆弱と言われているセクターが、誰一人取り残されることなく、主体性を持って民主的な活動ができるような社会を目指して活動しています。
「SDGs Youth Proposal 2023」という政策提言書は、2023年に日本政府が改訂したSDGs実施指針に対する政策提言書として作成しました。オンラインで開催したイベントに参加した107名のユースと、オンラインアンケートで得た101の回答に基づいて作成しています。
最も多かった意見は、意味あるユース参画を実現すると掲げているところが多いものの、席を用意して終わりというものや、金銭的支援がないため学生がアルバイトをしても交通費が賄えず、イベントに参加できないという声でした。また、年齢が邪魔をして、登壇の依頼をいただいても未成年だと断られてしまうイベントもありました。
興味深いのは、岡山県で行ったイベントと東京都で行った全く同じ内容のイベントで、全然違う声が上がったことです。東京などの都会では多くのイベントがあるため、いろんなユースと意見交換でき、企業の本社や省庁とも触れ合える機会があります。一方、岡山県ではそもそもそういったイベントが開催されず、同じ問題意識を持つ人と意見交換することができないという声が多くありました。地域と都会の差が顕著に現れているため、今後は地域でのイベント開催を通して、「声なき声」をどのように掬い上げていくかに注目して活動していきたいと考えています。

川廷

今回ユースレビューも実施されましたが、ユースの声を今後、政府や自治体にどのように生かしてもらいたいとお考えですか。

山口

政策提言書を提出して終わりではなく、しっかりとフォローアップをしていく必要があると思います。フォローアップの結果は1、2年ではあまり出てこないため、継続的に長い目で見ていく必要がある一方で、2030年のSDGs達成期限までには間に合わないという課題もあります。
今回はボランタリーユースレビューとして、ユースの視点でSDGsの現在の進捗を調査しました。弊団体は2015年から活動を続けて今年で10年を迎えましたが、2、3年でユース参画が大きく前進していると考えています。
外務省に尽力いただいて、SDGs推進円卓会議におけるユース席の確保や、COPでの政府オブザーバーとしてのユース参加、金銭的保障もしていただき、ユース参画は大きく進んでいます。ただ、会議やプロセスの一部にのみユースの発言機会が設けられ、どのユースが参加できるのか、その選考基準が不透明という問題があるため、ユース参画を推進する制度をもう少しブラッシュアップしていただきたいと考えています。
また、今回行ったボランタリーユースレビューが実際に政府のVNRに記載されたのは、全世界でも珍しいことだと認識しています。アジア、さらには全世界に広めていくために、情報の発信や、ユースのコネクションをどのようにつなげていくかを考えていきたいと思います。

対話の中で見えてきたこと

川廷

皆さんから非常に熱い思いをお話しいただきました。本来であればもう少しクロストークをしたかったのですが、一人ひとりの熱い思いの中に非常に多くのエッセンスがあったと思います。
このパネルでは、SDGs達成の加速策と、2030年以降を切り開くための視点、この2つを皆さんに感じていただきたくて質問しました。皆さん自身が今度は主催者となって、ビヨンドSDGsに向けた成果と意見集約にぜひトライしていただきたいと思います。

写真:藤井 泰宏
取材:インプレス・サステナブルラボ「SDGs白書」編集部
グラフィックレコーディング:根本 清佳(GREAT WORKS)