ビヨンドSDGs官民会議 キックオフ・フォーラムReport 【開会挨拶とインプットトーク】

2027年に国連でSDGsの次の目標策定が始まるのを前に、政府、企業、市民社会、学術機関など多様な主体が参画し、日本・アジアから提言をまとめようと「ビヨンドSDGs官民会議」が発足。2025年9月4日に、キックオフ・フォーラムが開催されました。フォーラムの冒頭では、外務省国際協力局 審議官の西崎寿美氏が意義を語り、次にビヨンドSDGs官民会議 理事長の蟹江憲史氏から、進め方の方針が示されました。2つのセクションを通じて、参加者は「誰一人取り残されない社会」の実現に向け、新たな国際枠組みの構築を日本・アジアから牽引していくという共通認識を持ちました。
開会挨拶/西崎 寿美(外務省国際協力局 審議官)
本日のビヨンドSDGs官民会議 キックオフ・フォーラムは、SDGsを取り巻く現状と課題を多様な視点から建設的に議論し、世界中の誰もが参加できる次の目標づくりと目標達成のための仕組みづくりに寄与する重要な場です。
 国連でSDGsが採択されて10年目を迎え、日本が4年ぶりにSDGsの進捗報告書を国連に提出した本年、ビヨンドSDGs、すなわち2030年以降の国際的な持続可能性の枠組みをテーマとした会議をスタートさせることは、意義深いことです。また、大阪関西万博においても、SDGs+Beyondが重要なテーマとして位置づけられています。
 政府は、SDGs達成に向けた取り組みを再生可能エネルギーや気候変動対策などにおいて国内政策や外交政策に反映させ、官民一体となってその実現に向けて邁進しています。日本は今後も一貫してSDGs達成に向けて国内外で積極的に取り組み、2030年以降の国際的な議論やルール形成において指導的な役割を果たすべく、長期的視点に立った取り組みを進めてまいります。
 誰一人取り残されない社会の実現に向け、すべての人が貢献していくことが重要です。多様なステークホルダーが連携して、社会課題を柔軟な発想と創意工夫で解決し、成長のエンジンに転換していくことが、SDGs達成、ひいては2030年以降の持続可能な社会への道を切り開きます。
 このビヨンドSDGs官民会議 キックオフ・フォーラムは、政府とビジネス、市民社会、有識者、地方自治体、アカデミアといった多様な関係者が連携し、知見を共有する知的交流の場です。よりよい議論のためには、幅広い分野から多様なデータやエビデンスを持ち寄ることが不可欠であり、みなさまの果たす役割は極めて重要なものになります。それぞれの知見やデータに基づいた議論、そしてここから生まれる具体的な取り組みが、国内外のSDGs推進、さらには2030年を超えたより豊かな未来の実現につながることを期待しています。
 みなさまのご活躍により、SDGs推進の輪が一層広がっていくことを祈念するとともに、政府としてもみなさまと連携しながら、SDGs達成に向けて取り組みを加速してまいります。

インプットトーク「『ビヨンドSDGs』へ 2030年以降の目標設定に向けた日本の新たな取り組み」
/蟹江 憲史(慶應義塾大学大学院 教授/ビヨンドSDGs官民会議 理事長)
今回のビヨンドSDGs官民会議 キックオフ・フォーラムでは、2030年以降の目標について話し合うマルチステークホルダーフォーラムを開催します。このような規模での取り組みは世界で初めてのことです。
 2027年に国連でSDGsの次の目標を話し合うことがすでに決定されており、世界各国でこの問題への取り組みが始まっています。しかし、マルチステークホルダーで議論している国はまだありません。ここに日本らしさを取り入れながら、国連のプロセス、日本国内のプロセス、そしてアジアのプロセスをリードしていきたいと考えています。

日本のVNRが示した新しい参加モデル
今年、日本は3回目のVNR(自発的国家レビュー)を国連で発表しました。最も大きな反響があったのは、ステークホルダーの参加モデルを提示できた点です。他国のVNRと比較しても、日本のレビューにはステークホルダーによる独立したレビューが大きく取り上げられており、政策への批判的な意見まで含まれています。
 このプロセス自体も民主的に行われ、政府の円卓会議から3月のステークホルダー会議、さらに幅広い意見を求めるパブリックコメントまで実施しています。こうしたプロセスは国際的に高い評価を受けており、このモデルをポスト2030アジェンダの活動につなげていきます。
2030年以降を見据えたプロジェクトの意義
2027年9月に開催される国連SDGサミットでは、グローバルな議論が始まる予定です。世界には対立もあり、サステナビリティに対する逆風も聞かれますが、2030年以降の世界を考えることは欠かせません。仮に国連という形でなくても、地域や国内のあらゆるレベルでこの議論を進めることが、2050年や2100年に向けた行動、経済、社会、環境の方向性を考えるうえで重要なのです。
 特に日本はアジアに位置し、アジアの声は現在のSDGsにはそれほど主導的に反映されていませんでした。しかし、今後の未来においてアジアが担う役割は非常に大きくなるため、アジアの仲間たちとともに未来のあり方を考えていくことが大切になります。
 また、島しょ国におけるサステナビリティも重要性を増しています。限られた空間で循環的に社会を回していかなければ将来が見えない、島国特有の課題があります。日本自体が島国であり、他の島との連携も、この会議において重要な要素です。
国内体制と国際連携の構築
国内では、ジャパンSDGsアクション推進協議会を発展させた、このビヨンドSDGs官民会議が動き始めます。同時に、グローバル・アジア・島しょ国との共同も進めていきます。エビデンスに基づいた議論が重要であり、国際的な研究者ネットワークとも連携する予定です。
 アドバイザーには、SDGsのオープンワーキンググループ議長を務め、169のターゲットと17の目標の骨組みをつくったハンガリーの元国連大使チャバ・コロシさん、マレーシアのザクリ・アブドゥル・ハミドさんに就任いただき、国際的に通用する対話を進めていきます。
2027年提案に向けた段階的展開
本フォーラムをスタート地点とし、みなさまからのインプットをいただきながら、ホームページや各種仕掛けを通じて意見を集め、ワークショップ段階に入ります。グループごとに考え方を集約し、次の世界にあり得る目標について議論を進め、2027年に提案したいと考えています。2027年以降も提案をより深掘りし、国際的・国内的に反映していきます。
 グループ分けについては、国連が2023年に発表したGSDR(持続可能な開発に関するグローバル・レポート)の6つのエントリーポイント(ウェルビーイングと能力・持続可能で公正な経済・持続可能な食料システムと健全な栄養・エネルギーの普遍的アクセスを伴う脱炭素化・都市と郊外の発展・グローバルな環境コモンズ)を活用します。この枠組みはさまざまな課題の関連性を考えるうえで適切な配分となっており、コロンビア大学のジェフリー・サックス氏も同様の提案を科学雑誌で発表しています。
世界の議論から見える課題と協働の必要性
7月のHLPF(ハイレベル政治フォーラム)のサイドイベントで、ディスカッションを実施しました。そこでは、先進国主導ではなく途上国との協働の重要性、国連を巻き込んだ議論の必要性、SDGsの達成できた部分への注目など、さまざまな意見が出ました。特に重要だったのは、こうしたプロセス自体が、次の目標に進むために不可欠であるという点でした。
気候変動と貧困にどう向き合うか
今年の異常な暑さはまだ序の口で、科学的には世界平均気温のさらなる上昇が予測されています。こうした状況への対応としては、エネルギー使用を抑える必要がある一方で、貧困層へのエネルギーアクセス確保のため、安価で利用しやすいエネルギー供給も必要になります。気候変動と貧困という一つの課題だけでも、残された方策は非常に狭いことが科学的に分かっています。
 この細い道を歩むためには、若い世代を含むさまざまなステークホルダーの知恵が必要です。科学に基づいた議論を通じてさまざまなアイデアを生み出し、将来の目標を設定していきたいと思います。
本フォーラムの基本方針
今回のフォーラムでは、エビデンスベースでの議論を進める予定です。人間と地球の状況について、最新の科学情報をわかりやすく解きほぐしながら考えていきます。また、否定ではなくポジティブな議論を心がけ、多様な考え方を認め合いながら集めていければと思います。
 万博をはじめ、この場以外のさまざまなステークホルダーや議論の場での成果も包括的に集め、議論の結果を反映させながら今後のプロセスを進めていきます。

写真:藤井 泰宏
 取材:インプレス・サステナブルラボ「SDGs白書」編集部
 グラフィックレコーディング:根本 清佳(GREAT  WORKS)