第2回ビヨンドSDGs官民会議 フォーラムReport 【オープニング】

2027年に国連でSDGsの次期目標の策定が始まるのを前に、2026年2月6日、多様な主体が参画し、日本・アジアから提言をまとめる「ビヨンドSDGs官民会議」の第2回フォーラムが開催されました。冒頭では、外務省 地球規模課題総括課長の高橋啓太氏が挨拶し、SDGsを取り巻く国際情勢や、日本におけるマルチステークホルダーによる取り組みの意義について言及。続いてビヨンドSDGs官民会議 理事長の蟹江憲史氏が、SDGsの課題を踏まえながら、2030年以降の社会のあり方を考える必要性について問題提起を行いました。
開会挨拶
高橋 啓太(外務省 地球規模課題総括課長/ビヨンドSDGs官民会議 理事)

本会議の開催にあたりまして、慶應義塾大学の蟹江教授、事務局、そして関係者の方々の多大なるご尽力に、心より感謝申し上げます。
朝早くからこれほど多くの方々にお集まりいただいたことは、2030年以降の経済社会のあり方がどういうものなのか、高い関心を集めている証だと感じています。
現在、国際情勢は非常に不確実です。各地での紛争や、SDGsをつくった国連におけるアメリカの脱退問題、国連自体の資金不足など、今まで当たり前だと思っていたことが、だんだんと当たり前ではなくなってきているような世界です。
しかし、何がよかったのか、何が悪かったのか、本当の「当たり前」とは何なのかということについて、立ち止まって考える機会なのではと思います。2030年まであと4年ですが、今がちょうどよい頃なのではないでしょうか。
SDGsは、国連におけるコンセンサスで採択されたという点で特筆されるべきものだと思っています。他方で、いろいろと課題もあるかと思います。SDGsの目標は今の時代に即したものなのかどうか、実施手段は十分なのか、日本での認知度は高いと言われていますが、本当に高いと言えるだけの成果が出ているのかなどです。こうした課題も踏まえながら、2030年以降の社会がどうあるべきなのかを考えていただければと思っています。
昨年7月、日本は国連で『自発的国家レビュー(VNR)』を発表しました。これは、日本のSDGsの進捗状況を日本自身が測り国連で発表したものですが、発表した報告書では、政府のSDGs推進円卓会議の構成員の方々にも1つのチャプター(章)を設け、コメントをいただきました。また、本会議に出席されている方の一部にも国連の会合にご参加いただき、日本の取り組みをアピールしていただきました。
日本におけるSDGs推進の特徴は、マルチステークホルダーということだと思います。政府だけではなく、多くの人々がプロセスに関与していくこと。そういう意味で、この官民会議の役割は非常に大きいものだと思っています。
官民会議の展開について
蟹江憲史(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授/ビヨンドSDGs官民会議 理事長)

SDGsの現状と構造的限界
SDGsは2030年の達成期限まで残りわずかな段階に入りました。しかし、最新の国連報告によれば、現状の延長線上で達成可能と見込まれるターゲットは全体の約35%にとどまり、残る65%は大幅な軌道修正を必要としています。SDGsは今、実行の最終局面にあると同時に、その構造的限界が明らかになりつつある局面にあります。この現実を踏まえ、2030年以降をどのように構想するかが重要な課題となっています。
今、世界情勢は大きく変化しています。地政学的緊張や分断が進み、多国間主義の基盤は揺らいでいます。一方で、AIやデジタル技術、宇宙分野などの急速な進展は、社会のあり方を根本から変えつつあります。持続可能性の議論は、こうした構造変化と不可分です。国際協力の枠組みを維持しながら、新たな技術とどう向き合うかが問われているのです。
日本の歩みと科学的エビデンスの警告
日本は昨年、『自発的国家レビュー(VNR)』を公表し、SDGs推進を継続する姿勢を明確にしました。同時に、その成果をポスト2030アジェンダへと接続していくことも示しています。日本は市民レベルでのSDGs認知度が極めて高く、その背景には、自治体や企業、市民社会が広く関与してきました。このマルチステークホルダー型の蓄積は日本の強みであり、次の枠組みを構想するうえでも、こうした多様な主体の対話を生かすことが重要です。
しかし、一方で科学的エビデンスは厳しい見通しを示しています。パリ協定の1.5℃目標は事実上超過しつつあり、異常気象や食料生産への影響は顕在化しています。アースコミッションが示した「ナローコリドー」は、安全かつ公正な地球システムを維持する道が極めて狭いことを示唆しました。気温抑制、生態系保全、公平な資源配分を同時に達成するには、従来の延長では不十分です。
2030年を通過点とした「ビヨンドGDP」の構想
私が執筆に参加した『持続可能な開発に関するグローバル・レポート(GSDR)2023』は、既存のシナリオでは2030年までのSDGs達成は困難であり、最善でも2050年規模になると結論づけました。すなわち、2030年は終点ではなく、より長期的な転換への通過点と捉える必要があり、そのためには、脱石炭、補助金改革、カーボンプライシングなどの抜本的措置が不可欠です。
その中核に位置するのが「ビヨンドGDP」の議論です。GDP中心の指標では、ウェルビーイングや不平等、環境負荷を十分に捉えられません。そこでハイレベル専門家グループは、①ウェルビーイング、②公平性・包摂性、③環境的持続可能性を三本柱とする新たな評価軸を提示しました。重要なのは、グローバルな共通原則を持ちながら、各国の文化や状況に応じた柔軟性を確保することです。ボトムアップ型のターゲット設定は、次の枠組みの鍵となります。
実効性のある次なる枠組みの構築に向けて
こうした新たな評価軸の実装を目指しながら、ビヨンドSDGsは、2030年以降を見据えることが、現在の行動を再設計する契機になるという前提に立っています。議論は国内に閉じず、アジアやジュネーブのBeyond Lab、ASEANとの連携を通じて国際的視野を確保します。日本発の議論が内向きに終わらないことが重要です。
また、ビヨンドSDGsはビジネス環境とも深く関わります。SDGs策定時にユニリーバやマスターカードが示したように、共通目標の中に企業戦略を位置づけることは、長期的競争力につながります。より大きな社会目標を共有することは、企業にとっても戦略的意味を持つのです。
枠組み形成は国連主導が理想ですが、FSCのように官民連携で実効性を確保する事例も、今後のあり方を考えるうえでの大きなヒントになります。都市ネットワークや企業連携など、多層的アプローチを視野に入れる必要があります。
今後の論点は、多岐にわたっていきます。基軸概念は何か。目標年をどう設定するか。法的拘束力をどう考えるか。エビデンスをどう担保するか。日本が主導できる領域は何か。こうした問いに対し、否定ではなく対話を重ねることが重要だと考えています。
ビヨンドSDGsは、新たな負担ではなく、未来を主体的に設計する機会となります。大阪・関西万博のレガシーを継承し、次の国際枠組みに接続する。そのために、多様な主体が自由で建設的な議論を積み重ねることが不可欠なのです。
投影資料はこちら

写真:渡 徳博
取材:インプレス・サステナブルラボ「SDGs白書」編集部
グラフィックレコーディング:谷古 清佳(GREAT WORKS)