第2回ビヨンドSDGs官民会議 フォーラムReport 【6つの分科会報告】

Report
2026.03.30

午後は各会議室に分かれ、6つのテーマに基づく分科会で具体的な議論が行われました。テーマは、国連が発表した『持続可能な開発に関するグローバル・レポート(GSDR)』で示された「6つのエントリーポイント」に対応しています。各分科会ではそれぞれのテーマのもと、課題を共有し、今後の議論の方向性について意見が交換されました。会議の最後には共同議長による振り返りも行われ、今後は分科会ごとに議論を継続していく予定です。

分科会1
人間の健康、福祉、能力の開花
(Human well-being and capabilities)

共同議長

稲葉 雅紀(グローバルヘルス市民社会ネットワーク 代表)
三輪 敦子(一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク 共同代表理事)

本分科会は「人間の健康、福祉、能力の開花」をテーマとしています。その領域は極めて広範であり、「何でも話せてしまう」という自由度と難しさを併せ持った分科会でもあります。今回は参加者全員の意見を聞くことを中心に据え、一人ひとりが持ち時間を守りながら、非常に密度が高く充実した意見交換の場となりました。
議論の中で複数の方が強調されていたのは、「SDGs疲れ」をいかに乗り越えるかという問いです。さらに、これまでの「課題解決型」のアプローチのみで本当によいのかという論点も浮き彫りになりました。MDGsからSDGsへと続く30年間の歩みを経て、現場にある種の疲労感が蓄積されているのは紛れもない事実です。単なる既存枠組みの延長では、次なる一歩に向けた気合いが入らない ─ そうした率直な声を受け、私たちは今、議論に新しい風を吹かせる必要があります。
こうした切実な問いは、ウェルビーイングやケイパビリティの議論とも密接に結びついています。今回の分科会で、30人を超える参加者から寄せられた多様な意見を真摯に検討し、6月の中間報告に向けて、さらに議論を深めていきたいと考えています。

分科会2
持続可能で公平な経済
(Sustainable and just economies)

共同議長

河口 眞理子(グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン 理事/立教大学 特任教授)
近藤 英里奈(G7/G20Youth Japanメンバー)

今回は参加者の意見を広く聞くことを中心に進めました。議論はまだ収束していませんが、今後も継続して議論していく価値のある問いが多く出ています。
本分科会では、まず「公正な経済とは何か」という根本的な問いから議論が始まりました。現行の資本主義が抱える歪みを直視し、貨幣的価値だけでなく、これまで不可視とされてきた非貨幣的価値をどう社会システムに組み込み、生かしていくかが大きな焦点となりました。議論では、自利と利他のバランス、共生コミュニティの設計、ソーシャルキャピタル(社会資本)の言語化と持続可能性への接続、そして包摂性と利益の循環など、多層的な論点が交わされました。特に、指標化されているものとそうでないものの差異に注目し、後者をいかに「社会を形づくる力」として再評価すべきかも議論されました。指標として何を持つべきか、そもそも指標化が目的なのか。目的と手段を混同せずに、まず「どんな社会をつくりたいか」を言語化する重要性について、参加者間で深い認識の共有がなされました。
また、ユース世代をメインに、年配者がアドバイザーとして支える構成への転換も提起されました。企業の現場が非財務的指標への対応に苦慮しているという現実がある一方、経済の本質を問い直す議論も印象的でした。例えば、被災地において「大工さんが隣にいるかどうか」が決定的な意味を持つように、信頼や関係性そのものが重要な経済資源となります。こうした「お金に依存しない信頼ベースの経済行動」を現代的に再評価し、市場経済以外の仕組みを選択できる制度設計や、住空間・サイバー空間を組み合わせたまったく新しい経済モデルの検討も提案されました。
さらに、既存の経済枠にとらわれないビヨンドの観点から、富の偏在やグローバル企業の課税回避に対するための国際連帯税の必要性も議論され、現状の経済の歪みがイノベーションを阻害しているという指摘もなされました。ただし、関係資本を新たに構築する際には、地方に残る既存の関係資本が内包するジェンダー不平等などのネガティブな要素を持ち込まない設計が求められます。多様なバックグラウンドを持つ方々にご参加いただき、次回に大きな期待をつなぐ貴重な問題提起を数多くいただく場となりました。

分科会3
持続可能な食料システムと健康的な栄養パターン
(Sustainable food systems and nutrition patterns)

共同議長

比嘉 政浩(日本協同組合連携機構 代表理事専務)
河野 康子(一般財団法人日本消費者協会 理事)

本分科会では、13名の参加者とともに「食」という最も身近な課題を深掘りしました。議論は、食料供給、栄養面、食品ロスと廃棄、そして食料システムの環境負荷という4つのテーマを軸に展開されました。
まず共有されたのは、個人の健康的な栄養パターンと持続可能な食料システムは切り離せないという認識です。分科会テーマでは前者がパーソナル、後者がグローバルな領域に思えますが、「食べすぎない・植物性タンパクを増やす・少食にする」といった個人の行動変容が、食品ロス削減や気候変動対応に直結します。「自分のことから世界を見る」という視点が、参加者全員の共通認識となりました。
この意識を社会に根づかせるために重要なのが「体験」です。農業体験やフードマイレージ、サステナブルレストランの利用など、子どもも大人も、食を通じて世界とのつながりを実感する機会の創出が求められます。参加者には自治体と連携して子ども食堂等を運営する方も多く、こうした活動の知見を共有し、横展開していく重要性が改めて確認されました。
個別の論点としては、例えば「減塩していますよ」と声高に叫ぶのではなく、消費者に気づかれないようこっそり実践している事業者の取り組みが紹介されました。こうした押しつけがましくない変化が、むしろ社会に受け入れられやすいという事実は、今後の施策への重要な示唆となります。また、生ごみのメタンガス発生量や燃焼熱量を数値で可視化することで、廃棄削減への意識転換を促す手法も提案されました。
食へのアクセスと貧困の問題では、東南アジアの貧困層への国際的支援の必要性に加え、日本国内の貧困層がいかに周囲に気づかれることなく食料支援を受けられるかという、心理的障壁の解消が論点となりました。食料が豊富な日本でも、実際には食料にアクセスできない人がいます。食料クーポン・給食無償化などの制度と、NPOによる支援を組み合わせた総合的なアプローチが求められます。
最後に、農業への主体的な関わりを促す「徴農制」というユニークなアイデアや、地域との協働のあり方、動物の命をいただくことへの責任を問うアニマルウェルフェアの視点も提起されました。食はSDGsのあらゆる課題への入り口であり、体験と想像力を通じて個人と世界のつながりに気づくことこそが、ビヨンドSDGsへの重要な一歩となります。

分科会4
エネルギーの脱炭素化とエネルギーへの普遍的アクセス
(Decarbonizing energy systems and universal energy access)

共同議長

上野 貴弘(一般財団法人電力中央研究所 社会経済研究所 研究推進マネージャー 上席研究員)
木村 麻子(令和6年度日本商工会議所青年部 直前会長/株式会社PR 代表取締役)

本分科会は、学術界、企業、ユース世代など多様なステークホルダーが参加し、2巡にわたる意見交換を行いました。議論の柱として、「シナジーとトレードオフの観点での論点整理」「ここにいない人の立場から見た論点の洗い出し」という2つの問いを掲げ、多角的な視点からエネルギーの未来を模索しました。
特に印象的だった点は、以下の3点です。
まず、理想と現実の激しい衝突です。エネルギー分野においても「SDGs疲れ」と共鳴するように、理想を追求しながらも思うように進まない現状への葛藤が数多く吐露されました。単にシナジーを謳うだけでなく、トレードオフを正面から議論することの重要性が、改めて浮き彫りになりました。
次に、「ここにいない立場」の可視化です。問いかけを通じて、都市と地方、日本と世界、社会的弱者、そしてジェンダーといった、エネルギー問題において考慮すべき多様な立場をある程度洗い出し、整理することができました。
最後に、専門家や事業者の不在がもたらした議論の広がりです。参加者の多くが間接的にエネルギーに関わる立場であったからこそ、各自の専門領域や生活実感からエネルギーを捉えることが可能となりました。この視点の広がりは、ウェルビーイングや持続可能な経済、地球環境コモンズなど他分科会のテーマとも深く響き合うものです。今回はその問題の広がりを捉え、6月以降の議論へつなげる土台を築けたと感じています。
エネルギー専門家である共同議長に対し、参加者はエネルギーを企業活動や社会実装の観点から捉えており、一つの正解を求めるのではなく、大きな視点を持ち続けることの必要性が確認されました。各立場の意見から、最終的には「まちづくり」のような大きな視点が浮かび上がるとともに、共通認識の欠如が活動推進の弊害になるという指摘もありました。今回共有された多様な視点をベースに、6月以降、より具体的な議論へとつなげていく予定です。

分科会5
持続可能な都市および都市周辺部の開発
(Sustainable urban and peri-urban development)

共同議長

大貫 萌子(SDGs-SWY)
藏並 豊綱(神奈川県政策局 企画連携・SDGs推進担当課長)

本分科会では、持ち時間を定めずオープンな形式で議論を進めました。最初は遠慮がちな雰囲気もありましたが、最終的には柔らかい雰囲気のなかで、課題感や優良事例を幅広く共有することができました。
議論の大きな柱となったのは、「都市部における地域コミュニティの形成」と「都市と地方の格差」という2つの論点です。
地方が直面する課題として、人口流出と過疎地域への専門的ノウハウの不足が挙がりました。その解決策の一つとして提案されたのが「2拠点生活」です。コロナ禍を経て普及したリモートワークやワーケーションは、新しい居住形態による地方課題解決の糸口になり得ます。ただし、2拠点生活においては、今まさに話題の選挙権の帰属先といった行政制度のあり方や、移住先の地域へどう貢献するかなど、制度的な検討が必要です。
また、都市・地方を問わず、地域コミュニティの形成が重要という意見もありました。自宅と職場を往復するだけの点と点の生活ではなく、住環境を「面」として捉え直すことが大切です。これは教育分野においても同様であり、教員や家族だけでなく、地域社会がより開かれたかたちで関わる仕組みが求められます。地域固有の魅力を再発見しながら、既存の建物や文化をどう残し次世代へつないでいくかも議論すべき課題です。すでに各地には優良事例がありますが、それらを横展開するためには、対話の場の設計やコミュニティ形成、既存建物の改修を可能にする法整備が不可欠だと考えています。
一方で、高齢化社会における診療所の確保や交通網の整備といった、生活インフラの維持という切実な現実課題も浮き彫りとなりました。しかし、「課題先進国」とも言われる日本が培ったアプローチや技術は、将来的に国外へ発信し得る貴重な知見でもあります。
今後は、今回の議論が都市近郊の視点に寄っていたことを踏まえ、地方在住者をどう巻き込んでいくかが大きな課題となります。また、「まちづくり」という言葉が持つ硬いイメージを払拭し、より親しみやすいコンセプトとして発信していく方法も、引き続き議論が必要です。日本の強みをどうアピールし発信するかを軸に、ビヨンドSDGsに向けた議論をさらに深めていきたいと考えています。

分科会6
地球環境コモンズ
(Global environmental commons)

共同議長

勢一 智子(西南学院大学 教授)
山口 凜(Japan Youth Platform for Sustainability(JYPS)事務局長)

本分科会では、自己紹介を兼ねた問題関心の共有に続き、フリーディスカッション形式で対話を深めました。高校生から社会人まで、世代を超えた多様な主体が絶え間なく発言し、活発な意見交換がなされたことは、本分科会の大きな意義となりました。
議論の出発点となったのは、自然や環境に対する根本的な向き合い方です。「自然を管理する」という従来のアプローチから「自然は普通に身近にあるもの」「人間は地球環境の一部である」という共生的な捉え方まで、多様な視座が提示されました。その広がりは、地域や国家、さらには宇宙レベルのマクロな視点にまでおよび、特にアジア太平洋地域の、生物多様性やブルーカーボンなどの豊かなポテンシャルに対し、日本がいかに貢献できるかという戦略的な提案もなされました。
システム思考の観点からは、シナジーやトレードオフ、スピルオーバーを全体最適として担保するシステムの必要性が指摘されました。森林分野を典型例として、北海道から九州まで地域ごとに自然環境が異なる以上、各地域の実情に合った「指標のローカル化」が不可欠であるという認識が共有されました。また、いわゆる「SDGs疲れ」への対応も大きな課題となりました。「SDGsが大事なのはわかるが、何をすればいいかわからない。行動に移せない」という声に対し、指標を策定すること自体を目的化せず、障壁を取り除き、理解しやすいかたちでの可視化を通じて、いかに実効性のあるアクションを促せるかが問われています。
また、「18個目のゴール:何も決めないゴール」という提案がなされました。これは、「あなた自身のゴールは何か」という問いであり、自分ごと化を仕組みとして提示し、自ら目標を選び取るためのインテリジェンスを育むことが、ビヨンドSDGsの本質的な力になるという意見を交わしました。
分科会開催前は、生物多様性やシナジーが議論の軸になると想定していましたが、企業・学生・関係省庁など多様な参加者の視点により、予想を遥かに超える深まりを見せました。後半に向かうにつれ、次回の議論テーマが自然とまとまっていったことも大きな収穫です。今回得られた土台をもとに、次回はより具体的なアイデアを詰めていきたいと考えています。

取材:インプレス・サステナブルラボ「SDGs白書」編集部
グラフィックレコーディング:谷古 清佳(GREAT WORKS)