第3回ビヨンドSDGs官民会議 フォーラムReport 【分科会の活動報告】

Report
2026.08.31

ビヨンドSDGs官民会議では、国連の「持続可能な開発に関するグローバル報告書(GSDR)」が示す6つのエントリーポイントをテーマに掲げた分科会での議論が進められています。本セッションでは、E-konzalの榎原友樹氏が、各分科会で幅広い論点を拾い上げ、今後の提言へとつなげるための検討フレームワークを解説しました。続いて6つの分科会の共同議長・報告者が、第2回までの議論を振り返り、健康と福祉、公正な経済、食料と栄養、エネルギー、都市、地球環境コモンズをめぐる主要な論点と、今後さらに深めるべき課題を報告しました。

ビヨンドSDGs官民会議 分科会を通した検討フレームワークについて
榎原 友樹(株式会社E-konzal 代表取締役/慶應義塾大学SFC研究所 上席所員)

分科会での議論をどう組み立てるかについて、第1回フォーラムの終了後から、共同議長や事務局と議論を重ねてきました。考え方としては、国連への効果的なインプットとなるアウトプットを先に決めて効率的に議論を進める方法と、SDGsのような幅広いテーマだからこそ枠を固めず論点を広く拾う方法がありました。共同議長の方との議論を通じ、分科会によって論点や視点がかなり異なることが分かってきたため、今回はアウトプットを先に決めるのではなく、広く論点を拾う方針としました。普段の国際的な議論では見えていない論点、現場活動の中で抜け落ちていると感じる論点をぜひ挙げていただきたいと思います。
そのための手掛かりとして、4つの枠組みを用意しました。1つ目は「現状の課題認識」です。ファクトベースの議論とともに、2015年以降の国際情勢の変化を踏まえ、何が変わり、何が達成できず、何が新たな論点になっているかの議論もしていただきます。2つ目は「ありたい社会の方向性」です。ビジョンメイキングの機会として、現状と国際情勢を踏まえ、どのようなありたい社会を描くのかをそれぞれのエントリーポイントで議論します。3つ目は「目標のあり方」です。方向性のコンセンサスがある分科会では、ゴール(目標)、ターゲット、インジケーターの枠組みや対象年など、より具体的な目標設定を議論します。AIや宇宙といった新しい論点をターゲットに加えるべきかどうかも含まれます。4つ目は「実現手段・ガバナンスの大枠」です。国連の求心力低下も指摘されるなか、法的枠組み、ボトムアップの実現方法、財政メカニズムやガバナンスのあり方を議論します。

この4つは、今どの論点を議論しているかを示す地図のようなものであり、他の論点を議論してはいけないという意味ではありません。ありたい社会について一定のコンセンサスがある分科会もあれば、そこから議論すべき分科会もあるため、進め方は共同議長の方に一任します。フォーラム当日だけでなく、必要に応じて分科会内でオンライン会議を重ねたり、共通の問いを立てて意見集約を図ったりすることも有効だと考えています。
分科会での議論において、このフレームワークはあくまで目安です。みなさまの活動の中で見落とされている論点、世界全体の潮流とは異なる日本独自の論点を積極的に挙げていただくことが、ビヨンドSDGs官民会議にとって重要だと考えています。

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分科会1
人間の健康、福祉、能力の開花
稲場 雅紀(グローバルヘルス市民社会ネットワーク 代表)

今年2月6日の第1回分科会は関心の高いテーマであったため、多くの方々が参加されました。議論の時間が十分に取れなかったのが残念なところです。そこで、第2回分科会に向けて、有識者へのインタビューとステークホルダーへのアンケートを実施しました。インタビューについては、いずれもSDGsの策定段階から交渉やデザインに関わった外交官や専門家の方々です。インタビューでは、多国間交渉における南北対立の深まりをどう乗り越えるか、普遍性と相互連関という枠組みをどう維持するか、また、AI・科学技術イノベーションへの対応などについて意見を聞き、討議しました。
アンケート調査は障害者、貧困層、LGBTQ+、高齢者、子ども、若者等メジャーグループおよびNGO関係者等その他のステークホルダー20名を対象に実施しました。その結果、SDGsが採択されてから10年間の変化については、目標11(住み続けられるまちづくりを)や認知症対策で一定の前進が見られる一方、ジェンダー平等や貧困問題は改善が乏しいとの意見がありました。SDGsは共通言語として様々な取り組みに肯定的に働いた一方、「誰一人取り残さない」という理念が実践に結びついていないとの指摘もありました。一般市民の理解のあり方については、環境イメージが先行し貧困・格差の認識が弱いという批判的意見が多い一方、学校教育での定着は評価されています。
ポストSDGsのあり方については、既存目標の延長でよいとする意見が3割、時代に合わせ新たな目標を策定すべきとする意見が7割でした。追加すべき論点として、国際人道法の遵守に特化した目標や、破局的事態への対処・レジリエンス回復の目標などが挙げられました。これらの結果を踏まえて、今後の議論に活かしていきたいと思います。

分科会2
持続可能で公正な経済
近藤 英里奈(G7/G20 Youth Japanメンバー)

私たちの分科会では、SDGsが達成できていない多くの課題の背景に経済システムそのものへの問題意識があることから、制度・政策を論じる前に「経済とは何か」「公正とは何か」という哲学的な問いから議論を始めました。
第1の論点は「経済とは何のために存在するのか」です。現在の資本主義は豊かさを生む一方で格差拡大や富の偏在を抱えており、経済成長そのものが目的化しているのではないかとの声が挙がりました。語源「経世済民」に立ち返り、経済とは人々がより良く生きるための社会の仕組みであり、お金の流れというよりも人と人のつながりそのものではないか、信頼や互助、地域コミュニティも経済を支える資本として捉え直すべきではないかという視点を共有しました。経済は社会や地球環境に埋め込まれた存在であり、健康・都市・エネルギー等すべての分科会のテーマを支える基盤だと考えています。
第2の論点は「公正」の問い直しです。ジャスティス(司法的公正)、フェア(対等な競争)、格差是正といった異なる概念があり、誰もが納得して参加でき、人間らしい生活の保障の上で公正な競争が行われ、人生を選び直せる選択肢があることが重要との方向性が見えてきました。
第3の論点は、市場経済を否定せず、贈与経済や地域コミュニティ、社会関係資本を組み合わせた経済のあり方です。
第4の論点はAI時代の公正な経済です。AIを前提とした社会設計として、AIガバナンス、情報の非対称性の解消、人間が参加してルールを作る仕組み、ジャストトランジションなどが議論されました。
経済の目的、公正の意味、新しい経済のかたち、AI時代のガバナンスを一体として考える必要があるというところまで議論を進めており、この土台を踏まえ、ありたい経済の姿を具体化していきたいと考えています。

分科会3
持続可能な食料システムと健康的な栄養パターン
伊藤 治郎(一般社団法人日本協同組合連携機構 常務理事)

私たちの分科会における参加者はこれまで15名前後という、比較的こぢんまりとしたグループで、顔の見える議論ができています。
2月6日の第1回分科会では、共同議長から国連資料や2030アジェンダとの関係について情報提供を行い、日本国内の課題も共有しました。持続可能な食料システムはグローバル・マクロな課題、栄養はパーソナル・ミクロな課題というイメージをみなさん持っていましたが、実は両者がつながっていることを確認しました。議論の中で5つの主要テーマが出され、特に体験や学びを通じた食への理解促進、より良い栄養摂取のハードルを下げること、経済格差・相対的貧困の広がりへの制度的対応の必要性が挙げられました。
しかし、私たちは1回の議論では不十分と考え、6月5日にオンラインで第2回セッションを開催し、農林水産省・厚生労働省の担当者に国の政策を説明いただいた後、意見交換を行いました。農水省からは食料・農業・農村基本法に基づく基本計画の内容、食料安全保障や持続可能な生産に関する政策を共有いただきました。厚労省からは、日本が抱える栄養問題として、塩分の摂りすぎ、若い女性の痩せすぎ、経済格差による栄養格差という3つの課題が示され、食品関連企業、金融機関、教育関係、自治体等とのマルチステークホルダー連携の重要性が説明されました。
意見交換では、国内問題にとどまらずグローバルな視点を持つべきこと、学校教育以外の学習機会・啓発を通じて国民一人ひとりが食品・栄養問題を自分ごととして考えられる仕組みづくりの必要性が話し合われました。さらに参加者へのアンケートも実施しており、その結果を踏まえて今後も議論を進めていきます。

分科会4
エネルギーの脱炭素化とエネルギーへの普遍的アクセス
上野 貴弘(一般財団法人電力中央研究所 社会経済研究所 研究推進マネージャー 上席研究員)

2月の第1回分科会では、榎原さんが説明されたフレームワークのうち「現状の課題認識」と「ありたい社会の方向性」について意見が出されました。課題認識では、データセンター建設ラッシュによる電力需要増加と排出増加、再エネ大量導入による土地利用・生態系への負担といった個別のトレードオフに加え、都市と地方、経済発展と安全保障・環境性、先進国と途上国、世代間といった大局的なトレードオフが指摘されました。企業や地域活動における「SDGs疲れ」への言及もありました。
ありたい社会の方向性としては、エネルギー需給構造の見直し、土地利用の見直し、IoT等技術による最適化、レジリエンス強化、環境外部性の政策的内部化などのシナジー創出策が挙げられました。地域ごとにトレードオフの現れ方が異なるため、シナジーのあり方も地域ごとに検討すべきとの意見や、価値観・経済活動自体の見直し(足るを知る、教育・メディアの役割等)も議論されました。一方で、シナジー論は綺麗事にすぎないとの厳しい指摘や、トレードオフは金銭で解決すべきという意見もありました。
第1回の会合後にはホルムズ海峡の事実上の封鎖という大きな情勢変化もあり、本日は前回の認識共有を深めつつ、「目標のあり方」「実現手段・ガバナンスの大枠」にも踏み込みたいと思います。目標のあり方では、目標7に加え、パリ協定の2℃目標・1.5℃目標、COP26での1.5℃目標再確認、COP28「グローバル・ストックテイク」での再生可能エネルギーの設備容量3倍増、エネルギー効率改善率の倍増の合意を参考情報として整理しました。引き続き、チャタムハウスルール*1で議論を進めていきます。
 
*1 参加者は会議中に得た情報を外部で自由に引用・公開することができる一方、その発言者を特定する情報は伏せなければならないとするルール

分科会5
持続可能な都市および都市周辺部の開発
大貫 萌子(SDGs-SWY共同代表)

第1回分科会に加え、6月中旬にオンラインで追加開催し、約10名に参加いただきました。
第1回では、人口減少社会において、人口やGDP増加を前提とした従来の社会システムを見直す必要があるという問題意識のもと議論を行い、5つの課題に整理しました。1つ目は、巨大インフラや大規模再開発など拡大成長前提の社会システムの限界。2つ目は、都市と地方の二項対立から関係人口・多拠点居住への移行。3つ目は、空き家等の既存ストックを活かす再生型社会への転換。4つ目は、地域の固有性とグローバル化(観光・インバウンド含む)との対立。5つ目は、GDPのみでは捉えられない地域のウェルビーイングです。
追加開催では、「あなたの地域における活性化とは何か」「人口が増えなくても成功している地域とは」などの問いを投げかけた結果、新たに3つの論点が示されました。1つ目は人口減少の何が問題なのかという点で、人口減少自体ではなく、人口構成や社会的分業のバランスの崩れが問題ではないかとの意見が出ました。沖縄の首里城でリタイア世代が案内役を担う例のように、一見非効率でも人や地域の幸福をもたらす「余白」の価値も共有されました。2つ目は地域との新しい関わり方で、地域留学のダブルスクール制度や自治体間の災害連携協定など、既存のつながりが十分認識されていない実態、ふるさと納税等を通じた関係人口拡大の可能性が議論されました。3つ目は「健康寿命から幸福寿命へ」という論点です。厚労省の統計によると、日本の平均寿命は男性81歳・女性87歳、健康寿命は男性72歳・女性75歳で、この差が拡大傾向にあります。若年層の自殺者数(小中高生は過去最多)やうつ病の増加、一人暮らしの60歳以上では5割超が孤立を身近な問題と感じているというデータも踏まえ、幸福の観点からのまちづくりの必要性が共有されました。
今後は、課題先進国だからこその知見をグローバルにどう展開できるかも含めて議論を深めていきます。

分科会6
地球環境コモンズ
嶋田 恭子(持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム政策提言部共同統括)

第2回フォーラムでは、官民の多様な参加者により、SDGsの成果と課題を踏まえたビヨンドSDGs時代の新たな価値観について活発な意見交換が行われました。そこでの議論を5つのポイントに整理しました。
1点目は、管理から共生への発想転換です。SDGsは地球環境を包括的に捉えて具体的な目標を示した一方、自然を管理対象とする考え方が残っているとの指摘があり、人間も自然の一部として共に支え合う視点への転換が求められました。加えて、ヨーロッパの「管理」志向とアジアの「生かされている」価値観の違いを踏まえ、多様な文化を尊重する柔軟な枠組みの必要性が共有されました。
2点目はシステム思考に基づく全体最適です。シナジー、トレードオフ、スピルオーバーという3つの視点の重要性が繰り返し指摘され、サプライチェーン全体を見渡した政策設計が必要であることが確認されました。
3点目は自分ごと化とローカル化です。SDGsの169のターゲットが身近に感じられないという声を踏まえ、地域特性に応じた目標への落とし込みと、教育・情報発信によるESG情報や環境データの可視化の重要性が共有されました。
4点目は多様な主体の連携です。企業のESG投資による森林管理、学生と企業の商品開発、SDGsアンバサダーと地域企業の連携など実践事例が紹介され、林業人材や自治体職員の育成、アジア太平洋地域との知見共有の重要性も確認されました。
5点目はビヨンドSDGsへの提案です。指標は行動促進と社会変革につながるものであるべきとし、SDGs疲れやグリーンウォッシュへの懸念も踏まえ、17の目標に加えて、一人ひとりが「18番目の目標」を考える余白を残すという提案が示されました。
地球環境を人類共通の財産として捉え、グローバルな視点とローカルな実践を結びつけることが、本分科会の中心的メッセージです。そのためにも、私たちが目指すありたい社会の実現に向け、次期国際枠組みにおける目標のあり方や実現手段、ガバナンスについて論点を整理していきます。

 

写真:渡 徳博
取材:インプレス・サステナブルラボ「SDGs白書」編集部
グラフィックレコーディング:谷古 清佳(GREAT WORKS)

 

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